Hanau's Quintは日本語では「Hanauの咬合の5要素」と呼ばれています。
これは以下の五つの要素からなります。
① Condyler inclination(顆路の傾斜度)
② Incisal
guidance(アンテリアガイダンスの角度)
③ Cusp length(height)(人工歯の高さ)
④ The plane of occlusion
(咬合平面の傾斜度)
⑤ Compensative curve(調節彎曲)
結論からいうと、バランスドオクルージョンを得るには、①と②が小さくて、③ー⑤が大きければ有利になります。
顆路の傾斜度は患者さんの関節結節の形態によって決まりますので、歯科医師が手を加えることのできない部分です。
また、上顎前歯は患者さんの審美を優先して、下顎の前歯はすでに決定された上顎前歯に対して患者さんが正しく発音ができるよう「機能」で位置を決定していくので、アンテリアガイダンスの角度も自ずと決まってしまいます。
もし顆路の傾斜度が急な患者さんで、アンテリアガイダンスも急だったらどうでしょう。これはバランスドオクルージョンを得るには非常に不利な状況です。有歯顎でもアンテリアガイダンスがきついと容易に臼歯離開するのでこれは感覚的に想像がつくかと思います。この状態でバランスドオクルージョンを得るには、残りの③ー⑤をなるべく大きくする必要があります。つまり、なるべく咬頭が高く咬頭傾斜の急な人工歯を選び、咬合平面の傾斜を急に、調節彎曲を大きくつける、といった具合です。
逆に、顆路の傾斜度がゆるくて、アンテリアガイダンスもゆるかったらどうでしょう。③ー⑤を先ほどのケースのように大きくしてしまうと、偏心運動時に前歯が離開してしまうでしょう。このため、咬頭傾斜の急な人工歯を選んだ場合は前歯がくっつくまで相当削っていかなければなりません。
このへんはバランスが非常に大事になります。顆路傾斜とアンテリアガイダンスを見ながらそれと調和する人工歯を選び、バランス良く配列していく必要があります。
ところでこれを有歯顎に応用することもできます。
この場合、総義歯とは逆に「臼歯離開咬合」を得たいので、①と②が大きくて、③ー⑤が小さければ非常に有利になります。矯正では初めにレベリングといって、スピーの彎曲をほどく作業がありますが、これは術後の臼歯離開咬合の構築にとっても非常に有利に働きます。
昔は有歯顎でもバランスドオクルージョンが理想と考えられていたため、有歯顎のスピーの彎曲を補綴物に反映させるために「ブロードリックの咬合平面分析板」が使われていましたが、有歯顎の補綴に調節彎曲を付与すると臼歯離開には不利なので、今ではあまりやらなくなっていますね。
下のリンク先でハノーの咬合の5要素を解説してくれているので、是非チェックしてみてください。5枚目ー10枚目のスライドを見ていただけると、ここで僕がなにを言わんとしているのか大体わかっていただけると思います。リンク先ではアンテリアガイダンスが急なケースに対して調節彎曲を強くつけることで対応しています。
http://www.ffofr.org/…/lect…/complete-dentures/hanaus-quint/